
退職金を受け取ったとき、貯金すべきか、投資で運用すべきか迷う方は多いのではないでしょうか。
とくに、新NISAは2024年から非課税投資枠が1,800万円に広がったため、資産運用の新たな選択肢として注目を集めています。
結論、老後の生活資金を貯めるには、もらった退職金の一部をNISAで運用するのがおすすめです。それでも、なかなか投資に踏み切れない方や、どうやって運用するかわからないという方もいるでしょう。
本記事では、NISAで退職金を運用すべき理由や、おさえるべきポイントを解説します。
リスクや失敗パターンも解説しているので、この記事を読めば、リスク管理を徹底したうえで、老後の生活資金を確保できるようになるでしょう。
目次
退職金をNISAで運用すべき3つの理由
もらった退職金をNISAで運用すべき理由は、以下の3つです。
- インフレに備えられるから
- 利益を非課税で受け取れるから
- 高齢者の約6割が年金のみで生活できないから
運用のメリットを知っておけば、自信を持ってNISAで投資を始められるでしょう。
インフレに備えられるから
NISAで退職金を運用すれば、インフレ(物価の上昇)による資産の目減りを防げる可能性があります。
たとえば、現在10万円で買える商品が10年後に12万円に値上がりした場合、普通預金の10万円には金利がほとんどつかないため、実質的に自分の資産が減ってしまいます。
一方で、NISAで投資信託を年間5%で運用できれば、10年後に約16万円になるので、インフレが起きても自分の資産の価値が下がりにくいでしょう。
利益を非課税で受け取れるから
NISAで退職金を運用すれば、得られた利益を非課税で受け取れます。
本来、投資信託で年間10万円の利益が出た場合、約2万円(20.315%)が税金として差し引かれるので、手元に残るのは約8万円です。
しかし、NISA口座なら10万円の利益をそのまま受け取れるので、効率よく資産を増やせます。
投資の期間が長くなると、積立額も複利の効果も大きくなるので、退職金をNISAで運用すれば老後資金を確保しやすくなるでしょう。
高齢者の約6割が年金のみで生活できないから
厚生労働省の「2023年国民生活基礎調査」によると、年金を受給している高齢者世帯の58.3%が年金だけでは生活できないと回答しています。
実際に、総務省が行った「2023年家計報告調査」によると、65歳以上の世帯(単身、夫婦のみ)では、毎月平均で3〜4万円の収入が不足している状況です。
高齢になると新たな仕事を見つけにくく、収入を増やすのも難しくなります。
そのため、退職金をNISAで運用して老後資金を確保しておけば、年金だけでは足りない生活費を補えるかもしれません。
参照元:厚生労働省|2023(令和5)年 国民生活基礎調査の概況 総務省統計局|家計調査報告 〔 家計収支編 〕 2023年(令和5年)
NISAで退職金を運用する3つのリスク
NISAで退職金を運用する前に、以下の3つのリスクを理解しておきましょう。
- 元本割れの可能性がある
- 損益通算や繰越控除を利用できない
- 非課税枠のみでは生活資金が足りない可能性がある
メリットばかりではなく、NISAのリスクを知っておけば、自分の退職金を投資で運用すべきか冷静に判断できるようになります。
元本割れの可能性がある
NISAは「投資」に関する制度なので、預金と違って元本が保証されていません。
為替や株の値動きなどによって、資産がマイナスになる可能性もあります。
ただし、金融庁の調査によると、投資信託を20年以上運用すれば、元本割れを起こしにくいことがわかりました。
老後資金を確実に確保するには、退職金を10〜20年の長期で運用する必要があるでしょう。
NISAで資産がマイナスになった際の対処方については「 NISAで資産がマイナスになったらどうする?確率や失敗パターン、対処法を解説 」をご確認ください。
損益通算や繰越控除を利用できない
本来、課税(特定、一般)口座で損失が生じたときは、ほかの証券口座の損益と合算して税金が決まります。
しかし、NISAは税金がかからない口座なので、ほかの証券口座と損益を打ち消せる「損益通算」や、損失を翌年に繰り越せる「繰越控除」の制度が使えません。
短期売買は損失リスクが大きいので、退職金で短期利益を狙うときは、損失が出たときに税金面のメリットが受けられる特定口座や一般口座を利用するのが無難でしょう。
NISAと短期トレードの相性については、「新NISAはスイングトレードに不向き?活用のメリットと3つの戦略を紹介 」で解説しています。
非課税枠のみでは生活資金が足りない可能性がある
NISAの非課税投資枠は最大1,800万円までと、上限額が決まっています。
つまり、毎月の生活費が高い世帯では、NISA枠をフル活用しても老後資金が足りないかもしれません。
たとえば、老後の30年間で毎月20万円の生活費が必要であれば、合計で7,200万円が必要です。
仮に、1,800万円を一括で投資し、年利回り5%で20年間運用したときの最終金額は約4,800万円なので、NISA枠のみでは老後に必要な金額に達しないことがわかります。
そのため、NISAだけでなく、貯金や保険、特定口座での投資など、複数の金融商品を組み合わせた方が良いでしょう。
自分たちに必要な老後資金の考え方については、「 実際2,000万円で足りる?老後資金の算出方法や作り方徹底解説 」記事で解説しています。
NISAで退職金を運用するときの5つのポイント
NISAで退職金を運用するときは、以下の5つのポイントをおさえておきましょう。
- 出口戦略を考える
- リスク許容度を理解する
- 貯金で必要な現金を確保する
- 損失リスクの高い商品を避ける
- つみたて投資枠と成長投資枠を同時に活用する
それぞれ解説します。
出口戦略を考える
退職金をNISAで運用する前に、いつ、どのように資金を受け取るのかという「出口戦略」を考えておく必要があります。
老後の受け取り方や必要な金額によって、最適な投資プランが変わるからです。具体的な出口戦略には、以下のようなパターンがあります。
- 長期運用で確実に資産を増やす
- 短中期的な売買で5年後に大きな利益を狙う
- 老後も資産運用を続けながら取り崩していく
- 高配当株やETFの配当金で老後の生活資金をまかなう
資産の受け取り方を決めておけば、ライフプランに合わせて資金を準備できるので、老後にお金で困るリスクを減らせるでしょう。
自分に合ったNISAの出口戦略を考えたい方は「 新NISAで活用できる5つの出口戦略!取り崩し金額のシミュレーションを紹介 」をご覧ください。
リスク許容度を理解する
退職金でまとまった資金を運用するときは、自分のリスク許容度を理解すべきでしょう。
リスク許容度とは、自分がどのくらい株の値下がりに耐えられるかという心理的な尺度です。
投資信託は長期運用が基本なので、値下がりに耐え切れずに売ってしまうと、20年後に狙えるはずの利益を逃す可能性があります。
全国銀行協会の「リスク許容度診断テスト」を利用すれば、自分のリスク許容度をざっくりと把握できるので、自分に合った投資商品や戦略を選べるようになるでしょう。
貯金で必要な現金を確保する
もらった退職金の一部は、貯金して自分の生活に必要な額を確保しておきましょう。
すべての退職金を投資に回したあとに株が値下がりすると、老後や現状の生活資金が足りなくなる可能性があるからです。一般的に、余っている資金の20〜30%を投資に回すのが理想的ですが、年代や世帯、収入によっても必要な割合は異なります。
こちらの記事「 NISAと貯金の適切な割合は?どっちを優先すべきか解説 」では、NISAと貯金の割合を「世帯」や「収入」ごとに解説しているので、無理なく投資を続けられる戦略が見つかるかもしれません。
損失リスクの高い商品を避ける
50〜60代の方は、若い世代より早い段階で老後の生活資金が必要になります。そのため、退職金を投資に回すときは、できるだけ損失リスクの高い商品は避けましょう。
たとえば、以下のような商品や戦略はハイリターンが狙えますが、損失リスクも大きいです。
- 特定の個別株への集中投資
- セクター(業界)への集中投資
- 為替や政治のリスクが高い新興国株への投資
老後資金が必要なタイミングで値下がりする可能性が高いので、値動きの高い商品ばかり買っていると、いきなり生活費が足りなくなるかもしれません。
NISAで退職金を運用するときは、値動きが安定している「全世界株式(オルカン)」や「S&P500」などのインデックスファンドへの投資がおすすめです。
できるだけ低リスクで運用できる商品について知りたいときは、こちらの記事「月1万円でつみたてNISAを始めるなら?オールカントリ― vs S&P500どっち?」で解説しています。
つみたて投資枠と成長投資枠を同時に活用する
生活資金に余裕があるときは、NISAの「つみたて投資枠」と「成長投資枠」を同時に活用して退職金を運用するのがおすすめです。
NISAの2つの枠で投資できる金額を、それぞれ以下の表にまとめました。
投資枠 | 年間の上限額 | 生涯の上限額 |
つみたて投資枠 | 120万円 | 1,800万円 |
成長投資枠 | 240万円 | 1,200万円 |
合計 | 360万円 | 1,800万円 |
参照元:金融庁|NISAを知る
毎年2つの投資枠を最大限活用する場合、年間360万円、月30万円を運用できる計算です(最短5年間で1,800万円の上限に達する)。
NISA成長投資枠で買える商品には、配当金によるインカムゲインや短期の値上がりによるキャピタルゲインを狙える商品もあります。
自分の余剰資金や出口戦略に応じて、できる限り2つの投資枠を同時に活用すれば、効率よく老後資金を確保できるでしょう。
NISAで退職金を運用する失敗パターン
退職金はNISAでの運用がおすすめですが、以下のようなパターンでは投資で失敗する可能性が高くなります。
- 一括で投資してしまう
- 短期目線で運用している
- まったく貯金をしていない
- 手数料の高い商品を運用している
- 損失リスクが高い商品を運用している
- リスク許容度を理解せずに投資している
とくに、投資に慣れていない方は、短期的な利益を狙って一括で投資するケースも多いです。
株や投資信託を買った直後に株価が下がれば、せっかくもらった退職金が減る可能性があります。
NISAで退職金を運用するときは、最低でもこちらの章で解説したポイントをおさえておけば、資産が一気になくなるリスクを減らせるでしょう。
投資の失敗パターンと解決策については、こちらの「株式投資では儲からない?失敗事例から学ぶ儲かる法則とは」記事でも解説しています。
退職金を運用するためのNISAの始め方
もらった退職金の運用に向けてこれからNISAを始めるときは、以下の流れで手続きを行いましょう。
- インターネットで証券口座の登録を申し込む
- NISA口座を開設する
- 投資する商品を選ぶ
- 積立での購入を設定する
- 余裕があるときに成長投資枠でスポット(追加)購入をする
まずは、NISA口座で積み立て投資をしつつ、資金に余裕があるときは追加で投資をしていくのが良いでしょう。
また、NISAで退職金を活用するときは、商品の運用手数料が安く設定されている「ネット証券」の利用がおすすめです。
「SBI証券」や「楽天証券」は、国内でもとくに人気のネット証券なので、こちらの記事でNISAの始め方を詳しく解説しています。
SBI証券のつみたてNISAの始めかた!スマホアプリやお得な設定方法を解説
楽天証券のつみたてNISAの始め方!お得に活用する5つのコツを紹介
NISAで退職金を運用するおすすめポートフォリオ
NISAで退職金を運用するときの、おすすめポートフォリオを紹介します。
以下の表では、年代ごとのおすすめポートフォリオ例と特徴をまとめました。
年代 | 割合 | 特徴 |
20代 | ・米国株式(40%) 全世界株式(40%) ・新興国株式(10%) ・アクティブ型(10%) | |
30代 | ・米国株式(50%) ・全世界株式(50%) | リスクは取れるが、ライフイベントでの支出が多くなりやすいので、アメリカを中心とした投資信託を運用する |
40代 | ・米国株式(50%) ・バランス型(50%) | 株式以外にも投資して、20〜30代よりリスクを抑えながら運用する |
50代 | ・バランス型(90%) ・米国株式(10%) | 老後に向けて、リスクを最小限に抑えながら運用を続ける |
もちろん、世帯や年収、リスク許容度によって、おすすめのポートフォリオは異なります。余剰資金で投資できる範囲で、自分に合ったポートフォリオを検討してみてください。
具体的な投資商品や割合については、こちらの「 新NISAでつみたて投資するなら?アナリストが厳選!年代別おすすめポートフォリオ 」で解説しています。
「退職金で効率良く資産を増やしたいが、損もしたくない…」
このような理由でなかなか利用に踏み切れないという方は、投資の専門家である「投資顧問」のサポートを受けることをおすすめします。
- どの銘柄を買うべきか?
- いつ買って、いつ売るべきか?
- 投資先の切り替えはどうすべきか?
- 損失が出ているときはどうすべきか?
- どれくらいの資金を投資に回すべきか?
投資家と契約を結んで、株式や債券などの売買についてアドバイスをする業務のこと。
投資のアドバイスを業務上のサービスとして提供することが法的に認められている、投資の専門家・専門会社です。
「ライジングブル投資顧問」は、これまで延べ3万人以上の利用者をサポートしてきた実績を持つ、株の売買のプロフェッショナルです。
ライジングブル投資顧問でできること |
・買い推奨のサポート ・売り推奨のサポート ・銘柄入れ替え・ロスカットのサポート ・保有持続のサポート →株売買に関する疑問・不安に寄り添い、徹底サポート! |
どの商品をいつどのくらい売買するのか、そのすべてをプロが決定していくので、
資産を増やしていく近道です。
NISA以外で退職金を運用する方法
もらった退職金をNISA以外で活用する場合、以下のようなケースが挙げられます。
- 預貯金をする
- 定期預金をする
- 不動産投資をする
- 貯蓄型保険を契約する
- 旅行や趣味に活用する
- 公的年金の受け取り時期を遅らせる
- ライフイベントで活用する(住宅ローン、教育資金の支払いなど)
ほかにも、ヘッジファンドやファンドラップなどで運用する方法もありますが、手数料や信頼性について吟味しながら検討する必要があるでしょう。
まとめ
本記事では、NISAでの退職金運用について解説しました。NISAは投資の利益を非課税で受け取れる制度です。
インフレリスクや高齢者の約6割が年金だけで足りない事実を踏まえると、もらった退職金はNISAで運用するのがおすすめです。しかし、NISAを含む投資には、元本割れのリスクがあります。
それでも、以下のポイントをおさえて退職金を運用すれば、安全かつ効率的に老後資金を作れるようになるでしょう。
- 出口戦略を考える
- リスク許容度を理解する
- 貯金で必要な現金を確保する
- 損失リスクの高い商品を避ける
- つみたて投資枠と成長投資枠を同時に活用する
今回紹介した年代ごとのおすすめポートフォリオ例を参考にしながら、自分に合った投資戦略で退職金を運用してみてください。
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