独身の方の場合、老後資金として必要な総額の目安は男性で1,000万円程度、女性で1,300万円程度と考えられます。1人ですべての資金を用意することになるため、早い段階から準備をしておくと安心です。今回は独身の老後資金の目安や貯蓄額の実態などをご紹介します。
目次
独身に必要な老後資金の目安
独身の場合、老後資金としてどの程度備えておけばよいのか、気になっている方もいるでしょう。さっそく、平均余命まで生きる場合に必要な老後資金の目安を、男女別に解説します。
男性の場合
独身男性の場合、総額1,000万円程度の老後資金を用意しておくと安心です。総務省の「2019年全国家計構造調査」によると、65歳以上の独身男性の収支は毎月約1.3万円のマイナスとなっています。なお、収入は年金などの社会保障給付のみとしています。また、厚生労働省の「令和3年簡易生命表の概況」では、65歳での平均余命は19.97年でした。
そのため毎月1.3万円程度、年間では15.6万円程度不足します。65歳から20年間生きると仮定すると15.6万円×20年間=312万円となり、生活費のみで312万円程度必要であることがわかります。
さらに介護費用として600万円程度、葬儀費用で100万円程度が、一般的に必要とされる金額の目安です。つまり、総額1,000万円程度が老後資金の目安といえるでしょう。
女性の場合
独身女性については、老後資金として備えておく金額の目安は、1,300万円程度です。総務省の「2019年全国家計構造調査」によると、65歳以上の独身女性の収入が社会保障給付のみとした場合、毎月の収支は約2万円のマイナスです。つまり、年間では24万円程度不足することがわかります。
女性の65歳時点での平均余命は24.88年であるため、24万円×25年間=600万円となり、生活費としては総額600万円程度足りなくなるでしょう。男性と同様に、この金額には介護費用や葬儀費用などは含まれていません。そのため一般的に必要とされる介護費用600万円、葬儀費用100万円を加えると、独身女性の老後資金の目安は総額で1,300万円程度です。
参考:総務省統計局「2019年全国家計構造調査」
厚生労働省「令和3年簡易生命表」
独身の老後資金を考える際に欠かせない3つの要素
独身の老後資金を考える際に、考慮する必要があるのは次の3つの要素です。
1平均余命
2.生活費
3.年金受給額
それぞれの要素について解説していきます。
1.平均余命
男女別老後資金の目安の計算でも確認したとおり、独身の老後資金に必要な金額を算出するには、平均余命が何年かを知る必要があります。平均余命とは、ある年齢の人が、その後何年間生きられるかという期待値のことです。
全国家計構造調査における「高齢無職単身世帯」の高齢者は、65歳以上の方のことであるため、65歳時点での余命を確認します。厚生労働省の「令和3年簡易生命表」によると、65歳時点での平均余命は男性が19.97年、女性が24.88年です。
そのため、65歳以降男性は約20年間、女性は約25年間生きるとして、生活費がいくら必要になるかを計算します。女性のほうが男性よりも約5年間長生きする傾向があるため、必要となる老後資金の金額も多くなることが一般的です。
2.生活費
老後の生活費も、独身の老後資金の目安を算出する際に必要な要素の1つです。総務省の実施「2019年全国家計構造調査」によると、65歳以上の独身男性の生活費や非消費支出の額は以下のとおりです。なお非消費支出とは、税金や社会保険料などの自由にならない支出や借金利子などを指します。
項目 | 金額 |
消費支出 | 143,354円 |
非消費支出 (税金・社会保険料・借金利子など) | 19,249円 |
65歳以上の独身男性の社会保険給付の平均額は149,802円のため、毎月の差額は約1.3万円です。
65歳の女性の生活費や非消費支出の額は、以下をご参照ください。
項目 | 金額 |
消費支出 | 140,607円 |
非消費支出 (税金・社会保険料・借金利子など) | 8,538円 |
65歳の女性の場合、社会保険給付の平均額は128,908円で、毎月の不足分は約2万円です。なお、男女とも支出に帯する不足分は、預貯金をはじめとする金融資産を取り崩して賄っているとされています。
3.年金受給額
老後資金の目安を計算する際は、年金受給額も考慮する必要があります。現役時に年金の保険料を支払っていれば、会社員であった場合は厚生年金と国民年金が、自営業者やフリーランスであった場合は国民年金のみが支給されます。
保険料を支払った期間や金額などによるものの、令和2年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金を含めた厚生年金の平均受給額は146,145円でした。一方、国民年金の平均受給額は56,358円です。
参考:総務省統計局「2019年全国家計構造調査」
厚生労働省「令和3年簡易生命表」
厚生労働省年金局「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 」
独身が老後資金として貯めている金額の実態
金融広報中央委員会が公表する、「家計の金融行動に関する世論調査 単身世帯調査」(2020年版)によると、60代独身者の金融資産保有額の平均値は1,860万円です。なお、同調査における60代独身者の金融資産保有額の中央値は460万円でした。
平均値は少数の高額試算保有世帯によって大きく引き上げられることがあるため、実態とかけ離れることが多いとされます。そのため金融資産の少ない順、あるいは多い順に並べたときのちょうど真ん中にあたる中央値を、平均的な水準と捉えることが一般的です。つまり60代独身者の平均的な貯金額は、460万円程度ということがわかります。
参考:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査 単身世帯調査」(2020年版)
独身が老後資金を備える4つの方法
独身の方が老後資金を備える方法としては、次の4つが挙げられます。
1.固定費を見直す
2.老後を視野に入れた住まいを検討する
3.資産運用を行う
4.年金の繰り下げ受給を検討する
60代独身者の平均的な貯金額が460万円程度であることは、すでにお伝えしました。しかし、老後資金の目安は男性が総額1,000万円程度、女性が1,300万円程度です。そのため多くの人の貯金額が、必要とされる老後資金の目安額と大きく乖離していることがわかります。
不足しがちな老後資金を備える方法について、順番に解説していきます。
1.固定費を見直す
固定費の見直しは、独身の方が老後資金を備えるために有効な方法です。固定費は生活費において大きな割合を占めるため、見直すことで確実に節約効果を得られます。また基本的に毎月一定額を支払うため、一度見直しをすれば半永久的に節約できることも大きな利点です。
固定費とは、具体的に以下のような項目を指します。
家賃などの住居費
水道光熱費
保険料
通信費
自動車関連費(車のローン代、駐車場代)
たとえば住まいが賃貸の場合は今よりも家賃が安い家に引っ越す、大手キャリアと契約しているスマホを格安SIMに乗り換えるといった方法によって、固定費を削減できるでしょう。また、生命保険に加入してから何年も経っている場合、保障はほぼ変わらない、保険料が抑えられた新しい保険商品が登場している可能性があります。
2.老後を視野に入れた住まいを検討する
独身の方が十分な老後資金を準備するためには、老後を視野に入れた住まいを検討することも必要です。前述の老後の収支計算は、持ち家や実家暮らしを想定して算出しているとされています。つまり賃貸暮らしの場合、生活費としてさらに3~5万円程度の家賃が加わります。そのため、生活費の中で大きな割合を占める住居費を抑えるために、早い段階で老後を視野に入れた住み替えを検討しましょう。
また、持ち家や実家暮らしの場合、リフォームやリノベーションにかかる費用も考慮されていません。住宅の購入時にあらかじめバリアフリー設備を備えておくことも、老後の不安を軽減するのに有効です。
3.資産運用を行う
独身の方が老後資金を備えるためには、資産運用を行うこともおすすめです。特に節税効果が期待できるiDeCoやNISAを活用するとよいでしょう。
iDeCo(イデコ)は公的年金制度に上乗せして受け取れる私的年金制度のことで、「個人型確定拠出年金」の愛称です。拠出する掛金が所得控除の対象となるほか、運用益が非課税になり、受け取り時も税制優遇が適用されます。iDeCoで積み立てた資金は、原則として60歳まで引き出せません。そのため、老後資金の準備にぴったりの制度といえます。
NISA(ニーサ)とは、「少額投資非課税制度」のことで、国の税制優遇制度の1つです。NISAは売却益、配当金、分配金に税金がかかりません。通常、売却益が出た場合は20.315%の税金がかかりますが、全額を利益として受け取れます。NISAには一般NISAとつみたてNISA、ジュニアNISAの3種類があります。老後資金の準備には、非課税期間が20年間と長いつみたてNISAが向いているといえるでしょう。
なお2024年以降、NISAの抜本的拡充・恒久化が図られ、新しいNISAが導入される予定です。
4.年金の繰り下げ受給を検討する
公的年金を繰り下げ受給することで、最大で84%の年金額が増額されます。割増率は一生涯変わりません。そのため65歳以降も働いたり、預貯金を取り崩したりすることですぐに年金を受給しなくても生活できる場合は、年金の繰り下げ受給を検討するという選択肢もあります。年金の受給時期は遅れるものの、増額された金額を受け取れるため、受給開始後は老後資金に余裕が生まれるでしょう。
公的年金は原則として65歳から受け取れます。しかし、希望すれば66歳〜75歳まで受給を遅らせることが可能です。年金を繰り下げをすると、請求時の年齢に応じて1年遅らせると8.4%、3年遅らせると25.2%増額します。
老後資金に組み込む生活費以外の3つの支出
ここからは、老後の生活費以外に必要となる支出について、それぞれ解説していきます。
1.介護費用
介護費用は、総額600万円程度と見込んでおくとよいでしょう。生活保険文化センターが公表した「生命保険に関する全国実態調査(2021年度)」によると、介護費用の月額平均は8万3,000円です。介護が必要な期間は平均で約5年1ヵ月であるため、8万3,000円×61.1ヵ月で合計約500万円必要です。
さらに同調査によると、介護ベッドの購入費用や手すりの設置や段差の解消など住宅のバリアフリーのための回収費用として、一時的に平均74万円がかかるとされます。そのため介護費用総額の目安は、総額600万円程度と考えておくのが適切でしょう。
2.住居費用
老後資金として準備しておく必要がある費用としては、住居費用も挙げられます。マンション住まいの場合は、室内や水回りなどの老朽化を見越してメンテナンス費用を用意しておく必要があるでしょう。一方、戸建て住宅の場合は、屋根や外壁などの修復費用が必要になる可能性が高いです。また、セカンドライフを過ごす新居を購入する場合は、まとまった購入資金を用意する必要があります。
老後の住居が持ち家なのか賃貸なのかによって、必要な老後資金が変わります。老後も賃貸物件に住み続ける場合は、年金生活を送りながら家賃や共益費を捻出しなければなりません。
住宅ローンを組んで持ち家を購入したケースでは、老後も住宅ローンの返済が続く場合は返済の負担が家計を圧迫する可能性があります。住宅ローンの返済が終わったとしても、固定資産税のほか、マンションであれば管理費や修繕積立金もかかります。
このように、老後の住居費用については多額の費用が必要になることがほとんどであるため、どの程度の金額が必要になるのかを考えておきましょう。
3.葬儀代・お墓の購入費
独身の場合、特に葬儀費用は自分で準備しておきたい費用の1つであるため、忘れずに老後資金に組み込んでおきましょう。葬儀にかかる平均的な費用は100万円程度といわれています。さらに、お墓の平均購入費は160万円程度です。
ただし一般的なお墓への埋葬にこだわらない場合は、納骨堂や樹木葬のほうが安く済む可能性があるため、選択肢に加える余地があるでしょう。
参考:生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」
まとめ
独身の老後資金として必要な金額の目安は、男性では1,000万円程度、女性では1,300万円程度が必要と考えられます。一方で、60代独身者の貯金額の中央値は460万円程度にとどまっています。また、公的年金をはじめとした社会保障給付だけを頼りにするのは現実的ではありません。
そのため、早い段階から老後資金を用意しておく必要があります。老後にかかる費用の目安を把握しておき、老後に向けた資産形成を始めましょう。