
NISAで含み損が発生していると、投資経験者のなかには「損益通算という制度で税金を減らせないだろうか」と考える方も多いでしょう。
結論から言うと、NISAは損益通算ができません。NISA口座内で損失が出ても、ほかの所得に対する税金の負担を減らせないのです。
しかし、NISAは利益に対しても税金がかからない制度なので、NISAの最適な立ち回り方を知っておけば効率よく資産を運用できます。
本記事では、NISAで損益通算ができない理由と、損失が出たときの対処法を解説します。
損益通算ができないNISAでの戦略についても解説しているので、本記事を読めば、NISAを活用して老後資金を作れるようになるでしょう。
目次
NISAの損失は損益通算と繰越控除ができない
NISAで生じた損失は、ほかの所得と損益通算ができません。加えて、損失を翌年以降の利益と相殺できる「繰越控除」の制度も、NISA口座には適用されません。つまり、NISAで損失が出ても、税金面でのメリットを受けられないのが現状です。
たとえば、NISAで10万円の損失、特定口座で10万円の利益が発生した場合でも、お互いを相殺して課税対象となる所得を0円にはできません。
特定口座の利益10万円分に対しては、約2万円分の税金を支払う必要があります。
NISAは損失が生じたときに税制上のメリットがないため、ハイリスク・ハイリターンな投資戦略を実行するときは、NISA以外の口座を利用するのが無難でしょう。
損益通算とは
損益通算とは、株式や投資信託の取引で生じた損失を、ほかの所得と相殺して税金を節約する制度です。
上場株式の取引で発生した損失は「申告分離課税」を選択すれば、配当金や利子所得と打ち消し合って、納税額を抑えられます。
たとえば、上場株式で10万円の損失が生じた場合、配当金や利子で生じた15万円の利益と損益通算すれば、課税対象となる利益は5万円になります。
繰越控除とは
繰越控除とは、投資で生じた損失を、翌年以降の利益と合算して納税額を減らす制度です。
1年間で生じた損失が利益より大きいときは、打ち消し合い後に残った損失を最大3年間繰り越せます。
具体例を出すと、今年100万円の損失が出て、翌年に50万円の利益が発生した場合、繰越控除により翌年の課税対象所得を0円にできます。残った50万円分の損失は、さらに翌年以降に繰り越せる仕組みです。
NISAが損益通算できない理由
NISAが損益通算できない主な理由は、NISA制度に税金の概念がないからです。そもそもNISA制度は、投資で生じた利益に税金がかからない仕組みで運用されています。
NISAで発生した利益からは税金が差し引かれず、そのまま全額を受け取れるのです。一方で、税金の概念がないため、NISAでは損失が出てもほかの所得との打ち消しができません。
また、NISAは投資初心者でも使いやすいように複雑な税金の計算を避け、仕組みをシンプルにしています。
複雑な損益通算の計算をなくすことで、NISAは初心者でも投資に挑戦しやすい制度となっています。
NISAで損失が出たときの3つの対処法
NISAで損失が出たときの対処法として、以下の3つが挙げられます。
- 早めに損切りをする
- 売らずに保有し続ける
- 売却して投資枠の再利用を活用する
対処法を知っておけば、NISAで損失が出たときでも冷静に対応できるので、損失を最小限に抑えられるでしょう。
早めに損切りをする
NISAを短期目線で運用している場合、損失が出たときは早めに損切りをした方が良いでしょう。
NISA口座では損益通算ができず、損失が大きくなっても税制面でのメリットがないからです。
たとえば、値動きが大きい個別株への投資は、投資信託より損失のリスクが高いです。「30%下落したら売る」や「1万円の損失が出たら売る」などの明確な基準を決めておけば、損失が出たときでも冷静な投資判断ができるでしょう。
ただし、NISAは長期的に資産を運用する制度です。
損失リスクの高い商品に投資するときは、損益通算ができる特定口座を利用した方が結果的に損失を抑えられるかもしれません。
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売らずに保有し続ける
NISAで長期的に投資信託を運用している場合、含み損が出ても売らずに保有し続けるのが無難です。投資信託を長期で運用すれば、利益が出やすいからです。
金融庁の調査では、投資信託を5年間運用すると元本割れするケースがあったものの、20年間運用すると元本割れしないという結果が出ています。
長期目線で投資信託を運用する場合、一時的な値下がりでも売らずに持ち続ければ、将来的にNISAで利益が狙えるでしょう。
売却して投資枠の再利用を活用する
NISA口座内の商品を売却すると、翌年以降に投資枠が復活し、再び非課税で資産を運用できます。たとえば、10万円分の枠を使って購入した商品を売却すると、翌年以降に再び10万円をNISAで運用できるのです。
損失が出た場合でも、投資枠を再利用して長期運用に適した投資信託を買い直せば、最終的に損失を取り戻せるかもしれません。
損益通算ができないNISAでの立ち回り方
そもそもNISAは、長期目線での運用を目的とした制度です。加えて、NISAでは損益通算ができないため、損失が生じたときのメリットがまったくありません。
そのため、時間的な分散効果で損失リスクを下げられる「長期的な運用」を目指すのが無難です。
実際に、金融庁が定めるつみたて投資枠の商品の条件には「長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託」※と明記されています。(※引用:金融庁|NISAを利用する皆さまへ)
NISAでは投資信託などを長期的に積み立てて、できるだけ損失を抑える投資手法を心がけましょう。ほかにもNISAで利益を狙いやすい投資方法として、以下のような戦略が挙げられます。
- 高配当株に投資する
- 債券ファンドに投資する
- インデックスファンドに投資する
- 下落したら成長投資枠で買い増しする
上記の戦略を組み合わせれば、NISAの非課税メリットを最大限に活用して、長期的に老後資金を作れるでしょう。
ただし、長期でもてるからと購入株価の回復見込みのない株式をもちつづけていると塩漬けと呼ばれるじょうたいになります。必要であれば損切をすることも資産防衛としては大事なことです。
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よくある質問
NISAの損益通算に関するよくある質問に回答します。
- NISAの口座内で買っているA株とB株の損益は合算できる?
- NISAの改正で損益通算できるようになった?
- 損益通算ができないNISAはやめた方がいい?
それぞれ解説します。
NISAの口座内で買っているA株とB株の損益は合算できる?
NISAの口座内で保有している複数の株式は、損益を合算できます。たとえば、A株で5万円の利益、B株で10万円の損失が発生していれば、合計で5万円の損失となります。
ただし、あくまで利益と損失を合算するだけなので、税金には影響しません。
NISAの改正で損益通算できるようになった?
2024年にNISA制度は新しくなりましたが、改正前と同様に損益通算はできません。主な変更点を以下の表にまとめました。
項目 | 旧NISA | 新NISA |
非課税期間 | 一般NISA:5年 つみたてNISA: 20年 | 無期限 |
年間非課税枠 | 一般NISA: 120万円 つみたてNISA:40万円 | 成長投資枠:240万円 つみたて投資枠:120万円 合計:360万円 |
参考:金融庁|NISAを利用する皆さまへ
改正後のNISAも損益通算はできないままですが、従来のNISAより非課税のメリットを活かしやすい制度となっています。
損益通算ができないNISAはやめた方がいい?
NISAでは損益通算ができませんが、やめる必要はありません。むしろ、投資方法に応じて以下のように使い分けると、投資で利益を狙いやすいでしょう。
- 長期投資:非課税のNISAを活用
- 短期投資:損益通算ができる特定口座を活用
NISAの非課税メリットと特定口座の損益通算メリットの両方を活用できれば、効率よく老後資金を貯められるかもしれません。
まとめ
NISAでは損益通算ができないため、損失が出ても税金の負担を減らせません。そのため、NISAでの資産運用は、できるだけ損失を出さない戦略が求められます。
NISAは長期的に利益を狙うための制度です。値動きの少ない投資信託をコツコツ買い続ければ、損益通算ができないNISAでも利益を狙えます。
お金に関する知識をつけながらNISAを続けていけば、効率よく資産運用ができるようになるので、趣味やちょっとした贅沢を楽しみながらでも老後資金が作れるでしょう。
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