
日々接する経済ニュースで、「ストップ高」や「ストップ安」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。しかし、言葉は知っていても、その意味を正しく理解している人は少ないかも知れません。
本記事では、ストップ高・ストップ安の仕組みと、自分が保有するまたは購入予定の株がストップ高・ストップ安となった場合にどう対処すべきか対処法などを解説します。値幅制限のルールを理解し、慌てて行動しないようにしましょう。
目次
ストップ高・ストップ安とは
ストップ高・ストップ安とは、1日の取引中に株価が一定の決められた値幅に達し、株価が動かなくなることです。特定の銘柄の株価が基準となる額以上に値上がりするとストップ高、基準額以下に下落するとストップ安になり、基準に満たない額では取引できません。これを値幅制限と言います。それぞれになりやすい例は次のとおりです。
ストップ高になる例
企業買収が期待される
決算内容が予想よりもよい
業績予測が上方修正された
企業にとってプラスイメージに繋がる報道がされた
ストップ安になる例
決算内容が予想よりも悪い
業績予測が下方修正された
業にとってマイナスイメージに繋がる報道がされた
株式がストップ高・ストップ安になると、取引に出されている株式は、まず注文を出している金融機関の取引量などに応じて配分され、次に金融機関のルールに基づいて個人の投資家に配分されることになります。
なお、米国のニューヨーク証券取引所やNASDAQには値幅制限はありませんが、サーキットブレーカーという制度があり、急激な株価下落に対しては一定の条件の下で取引が一時中断される場合があります。
値幅制限の例
ストップ高・ストップ安になった際に実施される値幅制限は、前日の終値(基準値段)によって次のように設定されています。
基準値段 | 制限値幅(上下) |
100円未満 | 30円 |
200円未満 | 50円 |
500円未満 | 80円 |
700 円未満 | 100円 |
1,000円未満 | 150円 |
1,500円未満 | 300円 |
2,000円未満 | 400円 |
3,000円未満 | 500円 |
5,000円未満 | 700円 |
7,000 円未満 | 1,000円 |
10,000円未満 | 1,500円 |
(以下略)これ以上の値幅制限など詳しくは、日本取引所グループの公式サイトをご覧ください。
ストップ高・ストップ安の値幅制限は、基準値段から上下約15%〜30%の間で設定されています。例えば、前日の終値が2,000円の場合は値幅制限が500円なので、1,500円でストップ安、2,500円でストップ高となります。
ストップ高・ストップ安が設けられている理由
ストップ高とストップ安は、次の2つの理由から設けられています。
1.投資家を保護する
2.過熱感や恐怖感による異常な値動きを防ぐ
順に解説していきます。
1.投資家を保護する
株式市場では値幅制限が設けられているため、投資家は制限を超えた価格で売買することはありません。暴騰しても制限があるので大きな利益は得られませんが、一方暴落したとしても、1日の下限が決まっているので損切りを判断する時間があるため安心して取引できます。
また、売買の金額を指定しない成行(なりゆき)注文で取引をする場合に、異常な値段での売買も防止できます。1日のうち突発的な上下の値動きをしたとしても、値幅制限の範囲内で抑えられているので、全く想定しない金額で購入することはありません。
2.過熱感や恐怖感による異常な値動きを防ぐ
値幅制限には、市場の過熱感や恐怖感による異常な値動きを防止する効果があります。株価が上がったり下がったりする理由は複雑で、必ずしも説明できるものばかりではありません。企業業績などの明確な理由がなくても、現在の相場感や将来の見通しに応じて変動することも多いです。株価の値動きに大手投資家の意向が動いているのではなどと憶測を呼ぶこともあります。
そもそも株式市場では不確定な要素と雰囲気により株価が変動することがあるので、企業の実態に伴わない値段になってしまうことがあります。銘柄の先行きが期待されて過熱感が増したり、当局による金融政策や値上がりが続いて暴落への恐怖感が大きくなったりすると、株価が異常な値動きをすることもあるので注意しましょう。
そのため値幅制限は、根拠のはっきりしない過熱感や恐怖感により株価が異常な値段を付けないようにする安全装置でもあります。
値幅制限が4倍に拡大する条件とは
通常、ストップ高・ストップ安になると株価は値幅制限の範囲内で上下しますが、国内株では2営業日連続で次のいずれかになった場合、翌営業日(3営業日目)から値幅制限が4倍になります。
(1) ストップ高(安)となり、かつ、ストップ配分(後述)も行われず売買高が0株
(2) 売買高が0株のまま午後立会(たちあい)終了を迎え、午後立会終了時に限りストップ高(安)で売買が成立し、かつ、ストップ高(安)に買(売)呼値(よびね。1株に対最小で取引できる値幅)の残数あり
引用:内国株の売買制度 | 日本取引所グループ
値幅制限が拡大される場合には、日本証券取引所のマーケットニュースなどで周知されます。
例えば、2023年7月19日には(株)TAKISAWA(株式コード6121)の値幅制限が次のように公表されました。
制限値幅(上限):2,000円(下限は通常どおり500円)
基準値段:2,387円、ストップ高:4,390円、ストップ安:1,887円
実際に発表されたニュース:マーケットニュース
値幅制限以降、ストップ高・ストップ安時以外の値段で売買が成立した場合は、その翌営業日から通常の制限に戻ります。
また、値幅制限が4倍に拡大されているときに成行注文で発注すると、思わぬ値段で売買が成立することがありますので、注意が必要です。
ストップ比例配分のルール(証券会社と個人への配分方法)
ストップ高・ストップ安になると、株式は証券取引所から次の順序で証券会社や個人に配分されます。
1. 発注数の多い証券会社の順に1単位(株数は銘柄により異なる)ずつ比例配分される
2.証券会社へ配分されると、各証券会社がそれぞれの社内ルールで投資家に比例配分を行う
通常、株価は売りと買い注文の株数が同じになることで決定します。しかし、売買のバランスが極端なため一致せずストップ高やストップ安になってしまう場合は、値幅制限された株価で売り株数と買い株数の比率に応じて比例配分されます。なお、ストップ高のときに行われるのがストップ高比例配分、ストップ安のときに行われるものがストップ安比例配分です。
例えば、大引け(取引終了)時の買い注文1万株に対し、ストップ高の水準で売り注文が5千株しかない場合は次のように比例配分します。(1単位は1,000株の場合)
A社 | B社 | C社 | D社 | |
買い注文 | 50,000株 | 20,000株 | 20,000株 | 10,000株 |
配分数 | 2,000株 | 1,000株 | 1,000株 | 1,000株 |
比例配分された証券会社は、発注時間順や発注数量順等の社内ルールに基づいて、投資家への割り当てを行います。
ストップ高・ストップ安になったらどうする
株ストップ高やストップ安になったら、理由を分析せず安易に株式を売買することは止めましょう。ストップ高の時に利益を得ようと慌てて買い増したり、ストップ安の時に損切りしようと投げ売りしたりすると、その後の株価が思ったように動かず思わぬ損失が生まれる場合があります。
値幅制限が発生したら、まずは理由を分析してみましょう。
ストップ高の時は、株価が本来の企業価値以上に評価されていないか考えます。良好な財務状況で今後も成長が見込まるのであれば、買い注文を入れてもよいかもしれません。しかし、企業価値が実態や見込み以上に過大に評価されている場合は、下落が始まる可能性があるので注意が必要です。
ストップ安の場合は、現在の財務状況が悪化し今後も低迷が予想されるのか、一時的に企業イメージを損なう報道がされたなどの原因があるのかを探りましょう。株価が低迷していても影響は一時的で回復が見込めるのであれば、安く株式を手に入れられるメリットがあります。しかし、今後も改善が見込めない場合はさらに損失が膨らんで行くかも知れません。
このように株価の動向から売り時や買い時を判断するには、普段から経済ニュースに目を通したり、株式を保有している企業が公開しているIR情報に注意を払ったりしておくことが大切です。くれぐれも感情に流されて短期的に売買を行うのではなく、できるかぎり長期的な視野で売買を判断することが身を守ることにもなります。
また、値幅制限が行われているときは売買が成立しにくいことも覚えておきましょう。ストップ高の際は、保有者はさらなる値上がりを期待して売却しようとしないことが多く、購入希望者も増えるため売買が成立しにくくなります。一方、ストップ安の際は、売却したい人は増えますが、それをあえて購入しようとする人は少ないため売買が難しくなります。
ストップ高・ストップ安の際に、どうしても売買しなければならない場合には成行注文が有効です。成行注文は売買金額を指定しないので、値段を指定する指値注文よりも早く取引が成立する場合があります。取引金額よりもとにかく早く売買したい際には有効な手段です。ただし、成行注文は価格を指定しないので、想定外の価格で売買が成立する場合があるので注意が必要です。
まとめ
株ストップ高・ストップ安とは、1日の取引中に株価が一定の決められた値幅に達し株価が動かなくなることです。具体的な値幅制限の金額は、前営業日の終値である基準値段から上下約15%〜30%の間で設定されています。
ストップ高とストップ安が設けられている理由は、次の2つです。
• 投資家を保護する
•過熱感や恐怖感による異常な値動きを防ぐ
また、一定の条件でストップ高やストップ安が2営業日続くと、次の営業日から値幅制限が4倍に拡大されます。思わぬ価格で株式を掴まないように気をつけましょう。
ストップ高・ストップ安になったら、慌てて売買するのは禁物です。一般的に投資家はストップ高の際にはさらに利益を求め、ストップ安の際は早く損切りをしたいという心理が働くため、取引が成立しにくくなります。
このため焦って冷静な判断を失い利益を逃したり損失を抱えたりしないために冷静に対応しましょう。値幅制限により、1日の取引の上限価格と下限価格は決まっています。落ち着いてまずは、ストップ高・ストップ安が起こった原因を分析し、将来どうなるか予測して買い時・売り時を判断することが大切です。
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